ジュニアクラス

心身を育んだ子どもたちが、 より高い稜線をめざす「ジュニアクラス」。 歩くチカラから、生きるチカラへ! (写真:八ヶ岳、東ギボシの山頂手前を行く子どもたち)

「式辞 君の理想を実現させよう」


3月25日、2017年度「親子山学校ジュニアクラス卒業証書授与式」が、陣馬山の山頂で執り行われました。今年も二人の六年生が、親子山学校を巣立って行きました。親子山学校は入るのは簡単ですが、六年生までやり遂げられる子どもはごくわずか。実は卒業するのが大変なガッコウなんです!

そんな狭き門を突破して行った、二人だけの卒業生たちに向けて読んだ「式辞」の全文をここに公開致します。(氏名等は伏せております)


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式 辞 「君の理想を実現させよう」

□□□□君、○○○○君、親子山学校のご卒業おめでとうございます。思い返せば今日、お二人がいるこの陣馬山は、君たちが親子山学校のキッズクラスにやって来たとき、最初に登った山です。

あの日、君たちはまだ山登りがどんなものかも分からないままに、お母さんやお父さんと一緒に登っていたはずです。あの日からこつこつと低山を歩き続け、やがてジュニアクラスへと上がって、たくさんの高山にも登ってきました。

ジュニアクラスでの最初の山は雲取山でした。三条の湯での竈(かまど)の火起こし、楽しい夕食。布団の上で仲間と過ごした時間。歩いても歩いても見えないゴール。どんな時でも、心の支えになってくれたのは、一緒に歩いてくれたお父さんやお母さん、そして山の仲間たちだったはずです。

あれは去年の夏休み最後に登った「こども山岳塾」の雲取山二日目のことでした。早朝6時過ぎに三条の湯を出発して、30分ほどの登りを終え、最初の休憩に入ったとき、私はリーダーであった□□君やサブリーダーを務める高学年の子どもたちに向かってこう言いました。

「さっきから見ていて、君たちはなにをやりたいのかさっぱり伝わってこないよ。君たちはいったいどんな山登りをしたいんだ?こんな山登りなんか、ちっとも面白くない。ここで止めたっていいんだ。今からお祭のバス停まで引き返そうか?どうするんだ?続けるのか、下山するのか、君たちで考えて決めてくれ!」

そう言って叱りました。

□□君を中心に子どもたちが話し合って、登山の続行が決まりました。それからは、子どもたちから積極的な声も出るようになりました。あの日の雲取山から、ジュニアクラスの仲間たちが、どんな山でも連帯感をもって山に登れるチームに変わっていったと思います。

まだ小学校の6年生や5年生に、山登りのリーダーシップをとらせて、しかもそのレベルアップを求めるなんて、世間の人からみれば「なんて無茶なことを」と思われるでしょう。実際に「こども山岳塾」を始めようとした時、見知らぬ人から「子どもだけで登山なんて、出来っこありません」と冷たく言われたこともありました。

でも、私はそうは思いませんでした。長い歳月を共に過ごしてきた君たちなら、必ず出来ると信じていました。そして事実、君たちはこの大きな課題を今も一つひとつ実現させています。

私は君たちの山登りを見続けて行くうちに、理想を追い求めることの大切さを知りました。君たちの山登りには、理想を実現させてゆくチカラがあると感じたのです。

その理想を実現してゆくチカラとはなんでしょうか。標高の高い山の上に立つことでしょうか? それは違います。

理想を実現させてゆくチカラとは、たとえば苦しいときも、くじけずに最後までやり切るチカラであったり、つらいときには仲間と愉快に過ごせるチカラであったり、困っている仲間を支えてあげられるチカラです。それが、理想を叶えてゆく始めの一歩だと思います。

理想を描くには、想像力も必要です。さきほどの、私が雲取山で子どもたちを叱ったことの意味は、それが登山であれなんであれ、大事に思うことをしっかりと想像し、それを子どもらしく伸び伸びと表現する姿を見たかったからです。理想を実現させる力があれば、君たちはこの先どんなところにあっても、自信をもって生きてゆけるということです。

自分の未来を考えるのも想像です。誰かのことを思うのも想像です。そして、それを実現させていくための手段や方法をみつけて実行することが、君たちの表現になるわけです。

もう一度言います。大切なことは、理想を描き、それを表現するチカラです。

君たちが続けてきた親子山学校の山登りにも、想像する時間と表現する場があったことを忘れずにいて下さい。

さて、小学校の六年間は、へなちょこ男子だったかも知れない君たちには、天国のような六年間だったと思います。けれども、これから迎える中学、高校での六年間、君たちの前には次々と大きな壁が立ちはだかります。その新たな挑戦に立ち向かう君たちに、この言葉を贈ります。

「精力善用 自他共栄」

せいりょくぜんよう、じたきょうえい、と読みます。講道館柔道の創始者で柔道家の嘉納治五郎(かのう・じごろう)が好んで使った言葉です。

「精力善用」とは、精神のチカラと肉体のチカラを上手に使って戦いなさい、という意味の柔道の教えですが、そのチカラとは相手を投げ飛ばして自分が勝利するだけのチカラでないのは、言うまでもありません。「精力善用」には、チカラを良いことに使えば、世界は変えられるという意味も含んでいます。親子山でも私はみんなに、山登りを通して「ココロとカラダを強くしなやかに育てて下さい」と言い続けてきました。「精力善用」の言葉、親子山学校の山登りにも通用する言葉だなと思っています。

もう一つの言葉「自他共栄」。自分も他人も共に栄える。自分が勝つことばかりにとらわれないで、まず人として相手を尊重したり、譲り合ったりすることも大切ですよ、という教えです。

つまり、柔道家の嘉納治五郎は、団体生活や社会生活においても、みんなで幸福をめざそうと言っているんですね。これは柔道を学ぶことで、社会をよくしようという理想を掲げた言葉なんです。これもジュニアクラスの山登りで取り組んできた、チームワークにも重なってくる言葉だと思います。

「精力善用 自他共栄」

もう一度、わかりやすくまとめると、「自分のチカラを、自分のためだけに使ってはいけません。チカラは、自分のまわりにいる人や社会のために使って下さい。あなたがそうすることで、世界は一歩ずつ幸せに近づいていくんですよ」ということだと思います。

これから迎える中学校生活でも、この言葉を思い出して、自分を勇気づけ、誰かを励ますときの言葉にして下さい。「精力善用、自他共栄」の精神をもって、君たちの理想を実現させてほしいと願っています。

最後になりましたが、卒業生の保護者である□□□□さん、○○○○さん、○○さん。ご卒業おめでとうございます。この日まで親子ともども無事故で来られたことも、合わせて心から歓びたいと思います。そして今日この日まで、親子山学校の活動に賛同と信頼を寄せていただいたことに、深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

以上をもって、私(わたくし)からの式辞とさせていただきます。

平成30年3月25日
親子山学校
主宰 関 良一





卒業証書授与


卒業生二名を囲むジュニアクラスの子どもたち