よちよち山

この子が転倒したとき、真っ先にダメージを受ける場所はどこですか?(画像はネットから転載)


ここ数年の登山ブームで親の世代も若返り、まだ山道を歩けない子どもをベビーキャリーに乗せて登山する親が増えてきました。

子どもを自然に触れさせてあげたいという気持ちもあるでしょうし、子どもを預けにくいという問題もあるでしょう。理由はどうあれ、とにかく幼い子どもを背負ってでも山登りをしたい親世代が増えています。

こうした背景もあってか、登山用品メーカーも店舗も、以前とは比べ物にならないほどベビーキャリーの生産、販売に力を入れているように思えます。背負いやすくて、バランスもよく、乗っている子どもにもストレスが少なく、安全性を考えた優れた製品であるという触れ込みです。

しかし、それでも100%安全が保証されるわけではありません。

親子山学校では、ベビーキャリーを利用される親御さんには、「背中の子にはヘルメットをかぶらせる」ことを義務付けています。

そうまでして、万一のために備えておきたいと考えるようになったきっかけがあります。

「よちよち山」(現在は活動休止)に二人のお子さんを伴って参加されていたAさんは、二番目のお子さんをベビーキャリーに背負っていました。まだ2歳未満の乳幼児です。その子はヘルメットをかぶっていました。私はてっきり安全のためにかぶらせているのかと思ったのですが、そうではなく、子どもの頭の形を矯正するための医療器具でした。

意外な答えに私はびっくりしましたが、子どものヘルメットによって、その子の頭部の安全性も保たれていることを感じました。

そして、危惧していたことは数日後に起きました。

キッズクラスに参加しているBさん親子も、二人のお子さんを伴って参加しています。二人兄弟の弟は「よちよち山」に参加していますが、上の子が参加する「キッズクラス」に加わるときは、父親が背負うベビーキャリーの中です。

もうすぐふもとの道に出るという坂道で、Bさんは足を滑らせて転倒しました。ベビーキャリーに乗っていた下の子も同時に転倒したわけですが、幸いにも打撲や骨折などの怪我にはいたらずにすみました。

「ヒヤッとしました」

下山後に、Bさんは真顔で報告してくれました。(先頭にいた私はその瞬間は目撃していませんでしたが、十分に想像できました)

Bさんの報告を聞きながら、もし条件が悪かったら重大な事故につながっていた可能性を感じました。私はすぐにBさんに言いました。「次回からは背中のお子さんにヘルメットをかぶらせて」と。

「ベビーキャリーにはヘルメットを」という思いは決定的になりました。

想像してみて下さい。ベビーキャリーともども転倒したとき、背中の子が真っ先にダメージを受ける可能性が高いとは思いませんか?そのとき、子どもの身体の中で、もっとも露出しているのはどこですか?

頭部です。

つまり、ベビーキャリーにいる子どもはもっとも無防備で、激しい衝撃をともなって転倒したとき、頭にダメージを受ける可能性は非常に高いということです。しかも、たいていの場合、ベビーキャリーに乗っている子どもは無帽であったり、かぶっていてもソフトな帽子です。転んだ先の状況によっては、大きな岩があったり、尖った枝があったり、さまざまな危険要素が潜んでいます。想像するだけでもゾッとします。

人間は転落・滑落した場合でも、ほぼ例外なく頭から落下していきます。その結果がどういう状況を招くか、これ以上詳しく書く必要はないと思います。

重大な事故が起こる前に、背中に背負われている子どもをしっかりガードしなければいけない。そう考えるようになって、親子山学校ではベビーキャリーで参加する子どもには「ヘルメット着用」を義務付けています。

より万全を期して、ベビーキャリーを背負う親にはダブルストック(2本のストック)の使用も提案しています。しかし、ストックでも転倒がゼロになるわけではありません。ストックなしでもバランス良く歩くことが身についていなければ、転倒する確立は減りません。

つまづき、横滑り、尻餅、転倒、転落、滑落。これは標高が300mしかないような低山であっても、等しく起こることです。「俺は大丈夫だ」などという言葉はなんの根拠にも保証にもなりません。

子どもの命を背負いながら、それでも山に向かいたいのであれば、ベビーキャリーの子どもにはヘルメットを着用させることが、<最低限の装備>ではないでしょうか。

トレッキング・登山に特化して作られたベビーキャリーといえども、転倒をふせぐ機能はゼロなのです。どんなに高価で高品質のベビーキャリーであっても、背負っている者が転べば、背中の子どもも一緒に転ぶのです。

山岳業界、登山用品メーカー、登山用品店でも早急にベビーキャリーと子どものヘルメットをセットで利用することを積極的にアピールしてほしいと思います。

悲しい事故が起きてからでは遅いのです。

追記:
ベビーキャリーに子どもを乗せたまま地上に置いて休憩する場合でも、置き場所が悪ければ子どもの動きでベビーキャリーは簡単に転倒します。親が目を離した隙にキャリーごと子どもが転倒したケースも私は承知しています。ベビーキャリーに乗せたまま、子どもから離れることは絶対にいけないということも覚えておいて下さい。

登山用品を宣伝するサイトなどには「据え置きも出来て安心」などと平気で書いているものが散見されますが、書いている人間はトラブルを経験していない(あるいは想定していない)無責任な宣伝文句なのです。

2014年4月29日
親子山学校
関 良一