コラム

低山から高山まで、 仲間の親子と登る山々で出会ったこと、思索したこと、 憧れること、悔やむこと、 そして嬉しかったことを綴ります。 親子山学校を貫くインティメイトな山の世界・・・。

ロープを使って背負う例(「マナスル山荘本館」山口信吉さんによるジュニアクラス春合宿より 2016年4月)


「ザックのハーネスで子どもを背負う」

親子山学校では、これまでに体調不良やケガなどで子どもを背負って下山したことはなかったのですが、今年の9月、10月と立て続けに子どもを背負って下山する事例が発生しました。いずれも腹痛を訴えて歩けなくなった子どもを背負っての下山です。(二例とも参加メンバーの保護者に、医師がいたため現場での応急手当は出来ています)

二つの例で取り入れたレスキュー方法は、ザックを利用して子どもを背負う方法でした。大人が背負うザックの背当て部分で子どもを挟んで、子どもの両足は左右のショルダーベルトから通して背負う方法です。この方法は、親子山学校でいつもお世話になっている入笠山「マナスル山荘本館」での合宿でも、山口信吉オーナーから教えていただいている方法です。

9月のときは、石老山の下山途中で腹痛を訴えた子ども(6歳)がいて、そのときは同行する父親のザックを使って背負ってもらいました。ザックの中身は少し減らして、ほかのメンバーに持ってもらいました。万一の下山中のつまずき、転倒時のために、ザックにカラビナでスリングをかけて、私が後ろから確保しながら歩きました。

10月のときも、景信山のヤゴ沢作業道から腹痛で歩けなくなった子ども(6歳)を背負って下ろしましたが、このときは母親のみの同行だったので、私が自分のザックにその子を挟んで背負いました。ヤゴ沢作業道は樹林帯の急斜面に細い作業道がジグザグに続きます。初心者親子にとってはつまずき、スリップに気を付けなければならないルートですが、子どもを背負った状態にも拘わらず、私はいつも以上に早く下山することができました。

実際に子どもを背負って歩いてみて分かることは、この方法が役に立つのはもちろんのことですが、何よりも実感したのは荷重のかかった状態で歩くことで、安定したステップを選んで歩こうという意識がよりいっそう自然に働くことでした。

けれども普段の山歩きがまったく出来ていなくて、理想的な歩き方への意識が希薄な人が背負うのは、逆に危険でもあると思いました。この体験で私が感じたのは、「普段から静かにやさしく歩くこと」、「段差の少ないラインを選んで、安定したステップに足を乗せて体幹を移動させる」といったことが、どれほど大切かということでした。それがこうした緊急時の歩きや、荷重のかかった時の歩きにも生きてくることを痛感しました。まさにボッカの歩き方そのものなのです。

どんな山でも「絶対に変わらない、変えない」正しい歩き方を身につけておくことが、あらゆる状況でも冷静に歩ける大きなチカラになることを実感したわけです。いろんなレスキュー方法を知っていても、それを実際に自分自身で対処できて、歩けなければ何の意味もないということも改めて知る良い機会でした。

ザックで担がれて下山したそれぞれの子どもたちは、翌月には元気な顔でいつもの山に参加してくれました。