子どもは山で大きく育つ
『4歳から登れる首都圏の親子山』(関良一・旬報社/2015年)は、親子山学校でも繰り返し登り続けている山とコースを取り上げたガイドブックです。
本の巻頭にある「はじめに」には、どんな思いでこの本を作ろうとしたのかを綴っています。その全文を掲載します。
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はじめに
街の中なら車道と歩道は区分けされ、バリアフリーも進んでいます。子どもがダダをこねれば、階段を避けてエレベーターに乗ることもできます。食堂に入れば子ども向けのメニューもあって、味付けや量も大人とは違います。
ところが山には、子どものための区分けはなにもありません。
たしかに昔と比べて、山の情報はたくさんあります。登りたい山のことはネットで簡単に検索でき、山の本や地図も豊富です。子ども向けの登山用品も増えました。
しかし、実際の山は子どもだろうと登山家だろうと、一切お構いなし。5キロの道のりは、誰が歩いてもきっかり5キロ。50センチの段差は、誰が通ろうと50センチ。びた一文負けてくれません。
さらに山登りは、歩いて移動するスポーツですから、道は刻々と変化します。つまり、問題の多い道を移動して行くのが登山です。
山は均一であることも、かたくなに拒否する場所です。言い方を変えれば、多様性があって、違ったものを受け入れてくれる場所です。
私が主宰する「親子山学校」には、毎年二百名前後の親子が登録し、一年を通して親子トレッキングをやっています。参加する子どもは、4歳児から小学6年生まで。年齢も学年もさまざまです。
子どもの中には、跳び箱が苦手な子、鉄棒の逆上がりが出来ない子、自転車に乗れない子もいます。花粉症の子、食物アレルギーの子、アトピー性皮膚炎の子、発達障害を抱えている子もいます。子どものハンディキャップは一人一人違います。
親はどうでしょうか。シングルマザーはいて当たり前です。仕事や育児に疲れた共働きの親もいます。コミュニケーションがへたな親。何事にもルーズな親。山でもずっと子どもを叱ってばかりいる親。子ども以上に未熟な親の、なんと多いことか。
これは悪口ではありません。一人一人違った悩みや欠点を抱えながら、それでも生きていくのが世の中であり、それが人間です。そこへ持ってきて、問題だらけの山道を、親子で登ろうというのです。
だから悩み多き親子であっても、助け合い、我慢しなければなにも進まず、なにも終わらない場所だということにやがて気づくのです。つまり、親子登山は、「子育ての延長」だったのです。
長野県の入笠山にある「マナスル山荘本館」の山口信吉さんが、こんなことを話してくれました。山口さんは気象予報士の資格を持つ方です。
「雨上がりの虹を誰かと一緒に見上げても、虹は立っている場所や角度で一人一人、色も形も違って見えているんですよ。ですから私とあなたが見ている虹は、同じものではありません」。
山登りもまったく一緒です。同じ山でも、登る人それぞれで見えるものは違います。ですから、どこに登ったかではなく、あなたと子どもがどう歩き、どう登ったかが大事なのです。
本書では、山によっては二つか三つのコースを紹介しています。いろんな角度からその山を味わい、力量に応じて登って下さい。あれもこれもと欲張らずに、お気に入りの山に出会えたら、何度でも通ってみて下さい。
小さな子どもほど、繰り返し登る山に親しみを覚えます。この木橋の上で大きなカエルに出会った。この小道でドングリをたくさんひろった・・・。
大人でも忘れていることを、子どもはよく覚えています。<知っている世界>に触れること、それが子どもの喜びです。
一つの山を親子でたっぷりと味わってから、ようやく次の新しい山に向かう。最初のうちは、それくらいゆっくりと始めてみてはいかがですか。登った山の数や高さを競うのではなく、子どもと一緒になにを共有し、どう過ごしたか。親子登山や子育ての醍醐味は、そこにあります。
関 良一
親子山学校 主宰