ジュニアクラス

心身を育んだ子どもたちが、 より高い稜線をめざす「ジュニアクラス」。 歩くチカラから、生きるチカラへ! (写真:八ヶ岳、東ギボシの山頂手前を行く子どもたち)

ジュニアクラス6年生の卒業制作は謝恩会場の一角に展示された


親子山学校を大学に例えるなら、キッズクラスは学部でジュニアクラスは大学院というイメージです。「小学生だろ。ずいぶんと大袈裟なたとえだな」と笑われるかもしれませんね。でも、その実態を垣間見たら、笑いが次の瞬間にはひきつってしまうかもしれません。

二年目のコロナ禍で迎えた2021年度。ジュニアクラスの6年生たちは、例年なら続けて来れた八ヶ岳をはじめとする高所登山に行けない状況でスタートしました。そうした中、「6年生一人ひとりで、自分がやりたい山登りをやってみたら」と提案を受け、すぐに取り掛かることにしました。「6年生企画山行」と称して始まったジュニアクラス6年生たちの山登りは、やがてどんどん進化して、気がつけばほぼ一年がかりの卒業制作に発展していったのです。

自分で考えたテーマをしっかりと調べて、計画を練って準備をして、実施に運ぶ。通常ならここで終わっても文句は出ません。でも、親子山学校はここでは終わりません。

実施の次に発表会を開きます。計画し、実際にやってみた結果、何がどう違ったりうまくいったのか。それを冷静に振り返ってまた資料を作り、大人も加わってみんなの前で発表します。「あゝ、これでやっと終わりか」というと、まだまだ終わりません。

「君たちは大学で言えば院生なのだから、最後に自分が研究したことを論文(卒業制作物)にして提出しなさい」と指示します。メールで何度もやり取りし、ダメ出しをし、親子山学校の卒業式を迎える3月下旬まで、6年生への手綱を緩めることなく「本気の論文」を作らせました。

もちろんすべてを子どもだけでやり遂げることは不可能です。そこには子どもの保護者も大きく関わっています。親子山学校ですから、子どもだけではなく親も一緒にやってナンボのものです。それでも根底にあるイメージや情熱は、子ども自身の中から湧いてきたものです。ですから、子どもたちは最後まで諦めず、ギリギリまで葛藤しながらより良い卒業制作にしようと戦い続けました。

この春、ジュニアクラスを卒業していった8人の6年生たち。その卒業制作のラインナップは以下の通りです。



Y・Hさん「スケッチ登山」画集の表紙


「スケッチ登山」Y・Hさん
●実施日:2021年8月14日 於・マナスル山荘本館
●参加者:大人10名 子ども11名
●発表1:2021年10月10日 於・高尾の森わくわくビレッジ
●発表2:2021年12月11日 於・マナスル山荘本館
★実施から最初の発表を経たあとも、最終的な完成まで長期間かかった卒業制作。最初の構想が崩れたあとも、モチベーションを落とさずに自分のものにし、高度な成果物に仕上げました。


論文形式でまとめたS・Tくんの「子どもだけで登山」


失敗を糧に次の成功に導いた過程が綴られています


「子どもだけで登山」S・Tくん
●実施日:2021年8月22日 於・陣馬山
藤野駅〜陣馬登山口バス停〜一ノ尾根〜山頂〜和田バス停
●参加者:子ども15名(二班に分ける)
●発表:2021年12月11日 於・マナスル山荘本館
★入念な準備で臨んだ子どもだけの登山でしたが、仲間が熱中症になり無念の途中下山。その経験を10月の雲取山(こども山岳塾)に生かし、最高学年として先頭に立つことの大切さを学んだことをまとめた報告書です。


家族で富士登山に挑んだK・Rくんの「富士山登山」


膨大な情報の精査と緻密な報告がダントツの報告書


「富士山登山」K・Rくん
●実施日:2021年8月25日〜26日
初日・須走口五合目〜七合目太陽館 二日目・七合目太陽館〜山頂〜須走口五合目
●参加者:K・Rくんの家族4名
●発表:2021年12月11日 於・マナスル山荘本館
★緻密にして入念な下調べに基づいた登山計画を立て、家族の高度障害などを克服しながら冷静に行動し、初めての富士登山を成功させた詳細な報告書。


山形から参加したY・Fくんの「ゴミ拾い登山」


論文形式に、参加した家族の絵とコメントも印象に残る報告書


「ゴミ拾い登山」Y・Fくん
●実施日:2021年9月19日 於:月山(山形県)
八合目駐車場〜無量坂入口〜仏生池小屋〜行者返し〜月山頂上
●参加者:Y・Fくんの家族4名
●発表:2022年2月19日 於・マナスル山荘本館(山形からリモート参加)
★月山のゴミを拾うだけでなく、山小屋で働く人や登山者へのインタビューを行ったことで、事前に抱いたイメージと実態の違いを自ら認識し、新たな発見ができたことが最大の成果となった報告書。


K・Sさんの「ハートルート縦走」


アンケートの回答を統計化、分析した報告が秀逸


「ハートルート縦走」K・Sさん
●実施日:2021年11月6日
高尾山口駅〜高尾山〜小仏城山〜大垂水峠〜大洞山〜コンピラ山〜中沢山〜西山峠〜三沢峠〜榎窪山〜草戸山〜四辻〜高尾山口駅
●参加者:大人11名 子ども11名
●発表:2022年2月19日 於・マナスル山荘本館
★山行後に配ったアンケートの解析と分析に基づいて、山行の実態と中身を細かく捉えた報告書がとても画期的です。


「阿里山カフェと高麗の歴史ツアー」のファイル


阿里山カフェと高麗の歴史を調べたY・Mさん


「阿里山カフェと高麗の歴史ツアー」Y・Mさん
●実施日:2021年11月7日
●参加者:大人11名 子ども12名
●発表:2022年2月19日 於・マナスル山荘本館
★彼女は自分が考えた題材に、問題意識を持ってそれを形にすることの難しさに最後まで葛藤し続けました。楽しいことをただやるのではなく、どこまで深く、より鮮明に表現できるかを考える時間になりました。


S・Nさんの「高尾山の秋の植物観察」


レイアウトが素敵な「観察BOOK」


「高尾山の秋の植物観察」S・Nさん
●実施日:2021年11月21日
日影バス停〜日影沢キャンプ場〜いろはの森コース〜高尾山〜3号路・2号路〜琵琶滝道〜ケーブル清滝駅前
●参加者:大人14名 子ども13名
●発表:2022年2月19日 於・マナスル山荘本館
★現地を何度も歩き、図鑑を調べて作った手作りの「いろはの森観察BOOK」がとても素敵。入念に準備して臨んだガイドぶりも分かりやすくて無駄がなく立派でした。


N・Kくんの「私と親子山学校」


「岩殿山」(私と親子山学校)N・Kくん
●実施日:2021年11月28日 於・岩殿山(山梨県)他
●参加者:大人14名 子ども13名
●発表:2022年2月19日 於・マナスル山荘本館
★岩殿山に登って終わりかと思いきや、それは彼の描いた構想の一部でしかなく、最後に仕上げてきたのは小説のようなシナリオと絵画のような絵コンテ。なりたい自分に徹底してこだわった男子のあっぱれな卒業制作。

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論文という枠には収まりきらないばかりか、アートと呼びたくなるようなレベルの高い表現にまで高めた、二つの卒業制作を改めて紹介します。


右手が64ページある和綴じの画集


「スケッチ登山」を企画したY・Hさんは、紆余曲折の末、ジュニアクラスの親子に登山靴を描いてもらいました。絵を描いた一人ひとりの発表会を経て、Y・Hさんはそれらの絵を一冊にまとめた画集を作ることにしました。それも「和綴じ」という日本に古くからある製本技術を使った画集です。


和綴じの制作行程を緻密に綴ったファイル


和綴じで作った画集には、その製本行程の一部始終を記録したファイルも添えられました。製本に使われた材料や道具、完成までの24の行程などが写真と解説で綴られており、それ自体が「和綴じの作り方」として成立しています。64ページにおよぶY・Hさんの和綴じの画集は、自分のためや提出用、献本用など同じものを全部で4冊作りました。画集という作品でまとめたY・Hさんには、論文形式での報告書をやめて、作者の思いや意図を簡潔にまとめた「アーティスト・ステートメント」を提出してもらいました。


Y・Hさんの書いた「アーティスト・ステートメント」


Y・Hさんの画集に収められた、仲間たちが描いた登山靴の絵。その一部をご覧下さい。


水彩画


鉛筆画


油画


「雨の日のくつ」水彩色鉛筆と水彩クレヨン


「2つの私」ピグマペン、ポスターカラー


「そのままの靴」zebra sarasa clip 0.5


「雨の日も風の日もいつもありがとう」鉛筆・水彩絵の具


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最後に紹介するのはN・Kくんの作品です。まずは彼のアーティスト・ステートメント「五歩目はいずれ」をお読み下さい。


N・Kくんのアーティスト・ステートメント「五歩目はいずれ」


N・Kくんが提出した分厚い冊子「私と親子山学校」を開くと、最初に現れる目次には第一章から第五章まで山の名前を冠した文章が綴られています。将来は映画監督になりたいという彼は、これを「脚本」として書いたようですが、それは短編小説と呼ぶ方がふさわしいほど素晴らしい出来の文章でした。山登りで体験してきた自然の姿を、彼は強烈な色彩表現や擬音を駆使してイキイキと活写しています。


「私と親子山学校」の目次


第五章「岩殿山と稚児落とし」冒頭の文章


第三章「高尾山」の冒頭部分


素晴らしい文章が終わると、最後にN・Kくんが絵コンテと呼んだ「紙芝居・岩殿山と稚児落とし」の迫力ある水彩画が現れます。





N・Kくんは保育園児のころから小学6年生まで、親子山学校に足掛け九年間通いました。山登りで五感を磨き、カラダの奥まで山登りが染み付いた少年です。卒業制作で提出した彼の「私と親子山学校」の最後のページの「おわりに」は、次の言葉で結ばれています。


N・Kくんの「おわりに」


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8人の6年生たちと過ごしたこの一年は、子どもたちのみならず、その親御さんも私も、最後の最後まで学び続けることを止めずに歩んだ一年だったと言えます。なかなか卒業制作のゴールが見えず、苦悩する子どもたちに私は訴え続けました。

「最初からゴールを決めるな」「学ぶということは、果てのない営みなんだ」ぞと。

幼い頃から山登りに親しんできた子どもたちは、山を歩く時のように忍耐強くコツコツと卒業制作に挑み、風雨に晒されても歩き続けたように卒業する最後の瞬間まで戦い続けました。子どものチカラは無限です。それを大人から「ここまでやれたから、もうやめていいよ」などと勝手に宣告してはダメです。8人の子どもたち、一人ひとりの能力がわかっているからこそ、彼らがリングの上にいる限り、私からタオルを投げることは決してしません。打たれても打たれても、ファイティング・ポーズを取り続けるこの子たちを、親子山学校は信じます。




「山と靴」ペンキ画

2022年4月2日
親子山学校
報告・文責 関 良一