「六つ星山の会」講演会を開催
2023年11月18日、高尾の森わくわくビレッジの研修室に親子山学校の親子メンバーが集まり、「六つ星山の会」の方々をお招きしての講演会が行われました。
今回の講演会が実現した背景には、親子山学校のジュニアクラスに所属する6年生の女子Y・Mさんが取り組んだ「6年生企画」がありました。「6年生企画」とは、ジュニアクラスで6年生になった児童が、山登りにちなんだテーマを自分で決めて、それを最後の一年間かけて調べたり体験したりしながら研究を進めて発表する、いわば卒論というか卒業製作のような取り組みです。
Mさんは「目の見えない人はどうやって山に登るのかな?」と疑問を抱き、視覚障がい者の山登りを専門にサポートしている団体「六つ星山の会」の存在を知りました。
そしてこの年の7月に、六つ星山の会の実際の登山に体験参加するため陣馬山に登ります。ところが思いがけずMさんは熱中症になってしまい、サポート体験するつもりだった自分が逆にサポートされる立場に変わります。しかし、それがかえって視覚障がい者の気持ちとサポートされることの重要性を身を持って体験できたのです。
Mさんが体験したことを親子山学校の仲間にも知ってもらおうということで、改めて六つ星山の会に相談し、実技を含めた講演会を開催することになったのです。
■創立者・松本克彦さんのお話から
40年以上も前の1982年6月、松本克彦さんが勤める日本点字図書館(東京・高田馬場)に二人の盲人が訪ねてきました。訪問の目的は、思いがけない内容でした。
「私たちは目が見えないけれど山に登りたい。どなたかに連れて行ってもらえないか」
受付にいた事務員がすぐに機転を利かせて、山登りをやっていた職場の松本さんに相談すると、全盲の人との登山経験など一度もなかった松本さんは即答で受け入れることを決め、翌月の7月には松本さんは二人の視覚障害者と一緒に丹沢の大山に登ってしまいます。
これが最初の経験となって、日本で最初の目の不自由な人のための山の会「六つ星山の会」が誕生しました。創立時のメンバーは、障がい者を含めて10人からのスタートでした。
「来る者は拒まず」の精神は、親子山学校も創立以来同じなので、松本克彦さんの懐の深さと行動力に共感すると共に、こうした活動を40年以上も続けていることに深く感銘しました。現在85歳の松本克彦さんは今なお矍鑠(かくしゃく)としており、ユーモアを交えたお話は大変楽しかったです。
山の会に付けられた「六つ星」の由来は、点字が六つの点で構成されることからと、星の集まりのすばる座から名付けられたそうです。
■柴田秀男さん(六つ星山の会・総務部長)のお話から
2023年現在、六つ星山の会には74名の視覚障がい者と113名の健常者、合わせて187名が登録しているそうです。
定例山行は毎月2回が基本で、年間20回以上の山行を行っています。このほかに月2回のミーティングもあり、行きたい山を決めたり下見に行く日程を話し合ったりするそうです。連絡事項などは、メールを音声で読み上げるシステムを使って視覚障がい者にも内容を届けます。
登る山のグレードは、独自にG0〜G4までに分けられています。視覚障がい者との登山は、通常のコースタイムの1.3倍から1.5倍の時間で登ります。これだけでも、社会人山岳会も顔負けの充実した活動ぶりが窺われます。
■森谷玲子さんのお話から
「六つ星山の会」に入って30年近く山登りをしているという全盲の森谷玲子さんからは、視覚障がい者の日常生活での困りごとや視覚障がい者を取り巻く現状などをお話ししていただきました。
視覚障がい者の生活や行動を支えるものは、大きく分けて「公的な援助」と「自力によるもの」とに分けられるそうです。ガイドヘルパーを頼む、朗読サービスを受けるなどは公的な援助やサービス。一方で白杖(はくじょう)をついて外出する、盲導犬を連れて出かける、点字を学んで文章を読むなどは自力による自立活動となるそうです。現代ではケータイ(スマートフォン)や腕時計でも、視覚障がい者のために音声で時間などを知らせる機能があるのはとても便利だそうです。
視覚障がい者にはつきものと思われる盲導犬ですが、日本にいる盲導犬は全部で八百数十頭しかいないそうです。これはお話にならないほど少ない数です。その盲導犬も10歳で引退させねばなりません。犬が人間のために、ましてや視覚障がい者のために能力を発揮できるのが10歳までなのだそうです。盲導犬が引退した後、犬と共に生活してきた視覚障がい者には代わりの盲導犬が優先的に回ってきます。このため、新たに盲導犬が欲しいと思っている視覚障がい者にはますます回って来ない・・という現実もあるそうです。
もう一つ、点字についても、点字が読める健常者が圧倒的に少ないため、このことも視覚障がい者にとっては悩みの種になっているそうです。日本の社会はさまざまな障がい者に配慮されたインフラやシステムが広がっているように思えますが、まだまだ気づかないこと、解決できていないことの方が多いのだなとわかりました。
駅や道路などで目の見えない人を見かけたら、さりげなく「どうしました」「何か困っていますか」と声をかけることはためらわずにやって欲しいと森谷さんは言います。障がい者も普通の人間です。考え事をしていたり、何かを数えていることだってあります。たとえ拒否されることがあったとしても、それに懲りずに声をかけることを続けて下さい。
■新海吉治さん(広報担当)による座学と実技
最大の関心は、目の見えない人とどのようにして安全に山に登ったり下りたりするのかです。その具体的な方法を六つ星山の会歴15年の新海吉治さんにレクチャーしてもらいました。
視覚障がい者を真ん中にして、その前後にサポーターが2名つくのが基本のスタイル。径6ミリから8ミリのロープを二重に折って、障がい者の持ち手側には滑り止めにロープのこぶも作ったものを、先頭を歩くサポーターの背中のザックにくくり付けます。
先頭を歩くサポーターは「山道では決して振り返らない」という鉄則があります。それは、サポーターが振り返る動きに連動して、ロープを握った視覚障がい者も横に動くため、誤って谷側に転落するなどの事故が起きるからです。
後ろからサポートする者は、「前サポーターと同じことは言わない」などの配慮が必要で、これも視覚障がい者が混乱しないための工夫です。
そして何よりも、サポートに当たる健常者は、「ボランティアという意識ではだめ」で、視覚障がい者の尊厳を守り、「対等に山登りを楽しむ同じ仲間」という認識でなければなりません。
そのため、六つ星山の会では、健常者も視覚障がい者も同じ料金の会費を払って活動しています。
講演会の最後の方では、親子山学校の子どもたちや親御さんにも、全盲の森谷玲子さんや西池いづみさんと一緒に歩く体験をしてもらいました。
六つ星山の会には多くの健常者が登録していますが、それでも実際の山行ではサポート要員が足りないことも多いそうです。柴田さんや新海さんは「若い人たちにもたくさん参加して欲しい」とおっしゃっていました。
六つ星山の会の「サポートBOOK」の後書きにはこう書かれています。
「あなたが一緒に山に行きたい人が、
視覚障がい者だったらどうしますか。
山をともに楽しめるといいですね。
違った感性が響きあって、山は今よりずっとすばらしく、
深く味わえるようになることまちがいありません」
六つ星山の会 ホームページ
https://www.mutsuboshi.net/
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