キッズクラス

満4歳以上の子どもと親が、 一年間の低山トレッキングを通して <歩くチカラ>を育む「キッズクラス」―――。

一つ目の陣馬山に向かう親子たち(2017年11月)


毎年11月は、キッズクラスの親子全員が陣馬山から高尾山までの縦走に挑みます。今年の11月も二百名近い親子が参加して、無事に終了しました。行程は和田バス停から歩き始めて、陣馬山、明王峠、景信山、小仏峠、小仏城山、一丁平、高尾山を経て、稲荷山コースでケーブル清滝駅前まで歩いて下山します。休憩をふくめて9時間前後、歩行距離は19キロに及びます。

4月から新たにキッズクラスのメンバーになった親子は、山登りを始めて八ヶ月目でこの縦走に挑みます。キッズクラスは満4歳児からの未就学児童が大半です。この縦走を迎えるまでに毎月の山登りを続けてきたとはいえ、小さな子どもたちにとっては大冒険。ココロとカラダの強さが試される長い一日になります。

ココロが折れるのは、最初の陣馬山(標高855m)への登りです。登山口で5分休んだあとは、山頂手前の一ノ尾根に上がるまで一時間近くひたすら登り続けます。山道を登りはじめて10分と経たないうちに、ぶつぶつと不平不満を言い出す子。ぐずぐずと泣き出す子が現れます。それでもお構いなしに、歩みを止めず登り続けてもらいます。


縦走の時期は紅葉も見頃(二つ目の山、景信山で)


ぐずっていた子も、陣馬山に登ってしまうと気分も変わり、そこからあとは比較的スムーズに歩けるようになります。二つ目の景信山では出発前に「もうこれ以上は歩けないというヘナチョコ親子は、ここで下山してかまわないよ。そのかわり、こっから先は泣こうがわめこうが最後まで歩き続けてもらうからね!さあ、もうやめたい子は誰?」と聞きます。

今年はリタイアを申告してくる親子は、一組もいませんでした。この縦走を成し遂げる最大の要素は、体力なんかではありません。九割はココロの問題です。たとえ4歳の子どもであっても、「最後まで自分の足で全部歩いてみせる」という気持ちを持ち続けられれば、誰にでも達成できることなのです。もう一つの要素を加えるならば、それは仲間の親子と一緒に歩くことでしょう。互いに声をかけながら励まし合って前進することで、困難も克服していけます。大所帯のキッズクラスでも、足並みが乱れることなく長い距離を一丸となって歩けるのは、仲間と育んできた連帯感です。


三つ目の山、小仏城山にやって来る親子たち


数十キロ先への移動には、電車やクルマを使うのが当たり前になっている現代人ですが、今のように交通手段が発達していなかった時代、日本人はもっと歩いていました。一日で十里歩いた…なんていう話が当たり前だった時代がありました。十里とは約40キロのことです。夜明けとともに歩き出し、日没まで歩きつづければだいたいそれくらいの距離になります。これは大人の場合の話ですが、かつての子どもたちだってその半分くらいは歩けていたことでしょう。

キッズクラスの縦走で19キロ。自宅から集合・解散する駅への行き来に往復1キロとすれば、この日の子どもたちは全員20キロを歩いたことになります。最後の1時間近くは、毎年日没にかかるため、全員ヘッドランプを点けて下山します。ケーブル清滝駅前にゴール仕切った親子たちはヘロヘロになって倒れ込むかというと、そんな人は一組もいません。むしろみんな晴れ晴れとした表情でゴールするのです。歩き切った子どもたちは、まだチカラを持て余しているほどキラキラとした顔つきです。


縦走の最後は、ヘッドランプを点けて歩きます


親子山学校のキッズクラスには、山登りのスキルを上げることよりももっと大切なことがあります。それは歩くことで叶えられる世界があることを、親子で掴み取ってもらうことです。山登りを通じて歩く運動をコツコツと反復しながら、ココロとカラダの両方の強さ、しなやかさを育んでもらいます。それを親子山学校では「歩くチカラ」と呼んでいます。これを子どもの時に身につけられるかどうかが、その後の「生きるチカラ」にも大きくかかわってくるように思います。歩行動物の仲間である人間の、大切な運動であることを知るためにも、歩くことを厭わない人間に育ってほしいと願っています。