子どもと山小屋
ジュニアクラスの子どもたちにとって、山小屋はホテルでも旅館でもない特別な場所です。なにしろ自分の足で、歩いて登って行かなければたどり着けません。
山小屋にはいろいろと制限もあるし、不自由なところもあります。それに山小屋の主人や小屋番さんって、なんだか怖そうで気難しそうというイメージもあるけれど、決してそんなことはありません。いけないことはいけないと叱ってくれる山小屋は、むしろありがたい存在です。
そんな山小屋の中でも、親子山学校のジュニアの子どもたちに人気のあるのが、雲取山や飛竜山への前哨基地「三条の湯」です。
三条の湯の表には二つのかまどがあります。一つはお湯を沸かすため。もう一つはご飯を炊くため。かまどですから、燃料は木です。落ち枝や薪をつかって火を起こします。
普段は都会に住む子どもたちにとって、目の前で火を起こし、火加減を調整しながらお湯を沸かしたり、ご飯を炊く作業は興味津々。子どもたちは山小屋に到着すると、ほぼ例外なくかまどのそばに集まってきます。
かまどの口に枝を入れる。その枝を少しいじってよく燃えるように調整する。具合が悪いと段ボール紙を使って扇いで空気を送る。火の粉が飛んできたり、煙りで目に涙を浮かべたり。そうした一連の作業を、三条の湯のご主人・木下さんはいつも温かく見守ってくれます。
木下さんの口から、子どもに向かって「だめ」とか「やめろ」という言葉を聞いたことがありません。子どもが枝を手に「これも入れていい?」と聞けば「いいよ」と言います。
「こういう経験、今はなかなかできないからね」
「ここで覚えてもらえればきっと忘れないよね」
木下さんは、どこまでも子どもの立場に立って、子どもの好きなように自由にやれせてくれます。先日、ジュニアの子どもたちと泊まったときは、ノコギリや鉈(ナタ)まで持ち出して、子どもたちに使わせてくれました。
鉈は木下さんの仕事用で、よく研がれた切れ味の鋭いものでした。ノコギリで枝を切る作業は女の子たちにも人気で、交代で順番にノコギリをかけて枝を切っていました。
登山を通して子どもたちが火や刃物を使うことの面白さ、大切さを学べる山小屋は、そうはありません。三条の湯に一度泊まった子どもたちは、二回目からはザックを放り投げると、まっしぐらにかまどに向かいます。
(写真:いずれも2014年4月26日 三条の湯)