雨でも登る親子山
親子山学校の山行は、原則「雨天決行」です。
これは「よちよち山」「キッズクラス」「ジュニアクラス」
すべてのカテゴリーに共通する“当たり前”のことです。
ですから、メンバーの親子は季節、天気に関わりなく
一年中雨具は必携。(これも当たり前のことですが)
活動を始めて12年間、雨が降ってきたのに雨具を
持っていなかった、というメンバーは私の知る限り
一人もいません。
忘れてきたけど、運良く降らずに済んでいたのかも
知れませんが・・・。
それにしても、どうして雨でも登山をやるのか。
「その日にあわせて、みんなが休みの都合をつけてきたので
雨だろうとやっておこう!」
「山で本格的に雨に降られ、本当に難儀するときに備えて
練習をかねてやっておく」
いろいろ言い分はありますが、ストンと腑に落ちる
理屈を見つけました。
写真家・作家の小林紀晴さんの近著
『だからこそ、自分にフェアでなければならない
プロ登山家・竹内洋岳のルール』(幻冬舎・刊)
の中に小林さんのこんな一文があります。
「登山は、基本的に雨天決行だ。
もちろん台風や自然災害などがあったら当然ながら
中止したり、途中で下山することもあるが、
通常は雨が降ったからといって、例えば野球の
試合のようにあっさり中止することはない。
すべての天候を受け入れたうえでフィールドを
歩くことを楽しむのが登山本来の姿だし、
醍醐味だからだ。
雨は想定内のことで、雨そのものを楽しむという
精神がある。雨もまた自然であるとう考え方だ。
だから雨具は絶対なのだ。
どれほど晴れていようが日帰り登山でない限り、
雨具は持っていく。
同じルートを登るのであっても、晴れているのと
雨降りとでは状況は激変する。何よりそれがそのまま
気持ちにも反映される」
(引用ここまで)
しいて私が修正したいのは、「日帰り登山でも雨具は必携」
くらいで、あとはまったく同感です。
雨にも、暖かい雨、冷たい雨、そぼ降る雨、横殴りの雨、
いろいろあります。
暖かく、そぼ降る雨の森を歩くときなどは、
晴天では絶対に感じられない山の匂い、色彩、
畏怖を感じることができます。
冷たく、強烈な雨にさらされたときは、もちろん
一刻も早く安全圏に避難・下山することに全精力を
傾けなければなりません。
親子山学校では、程度の差こそあれ、
雨の山登りを体験しながら、いざという時のためにも、
そして、もう一つの山の姿に触れるためにも
せっせと雨の日の山登りを続けています。
『だからこそ、自分にフェアでなければならない』には、
プロ登山家・竹内洋岳さんの言葉もたくさん載っていて、
めざす世界のレベルこそ違っても、山に向かう考え方
という点では、共感することや学ぶことがたくさんあります。
先日(2月8日)、ジュニアの親子たち14名ほどで
箱根にある矢倉岳(870m)に登ったときのことです。
途中からみぞれ混じりの雨になり、草原の山頂に
上がると強風を伴ってみぞれはいっそう激しく
降りそそいできました。
体感温度もかなり低く感じられます。
山頂には5分と立っていられません。
「樹林帯の中まで下りよう。みぞれの影響がなければ
そこで昼めしにする」
そう伝えて、山伏平(清水越)方面へ下りはじめました。
しかし、樹林帯に入っても大粒のみぞれは頭上の
杉の梢を通過して、ボタボタと落ちてきて、雨具に
まとわりつきます。
足柄峠方面をまわって地蔵堂バス停に向かう予定を変えて、
山伏平の下の分岐から、直接地蔵堂バス停へ向かうルートに
変更しました。
このルートは私自身、歩いたことがありませんが、
このみぞれと寒さから一刻も早く脱するためには
それが最善の選択と判断しました。
エスケープです。
そのルートは、道標によれば地蔵堂まで「45分」。
コースタイムから判断すればとても短い距離です。
けれども、地形は複雑で、山腹を巻きながら暗い
樹林の中を何度も上下します。そのうち鉄塔の立つ
尾根上に出て、さらにまたどんどん下る。下って
下って、沢スジまで下り切ると、最後にまた登る。
初めてたどるルートですから、45分とわかっていても
1時間にも1時間半にも感じます。
みぞれは止むことなく降りつづけています。
私は、メンバーのほとんどが雨具の上しか着ていない
ことに気づきました。そろそろズボンにも雨が
凍みてきて、寒さで体温が奪われるかもしれない。
ころあいを見て、樹林の中で全員に下も履くように
伝えました。レインパンツを履いただけで
暖かさが戻りました。
あと少しで山道は終わる。
ここまで、わずかに行動食を口に入れてもらった
だけで、昼めしなどとても食べられる状況では
ありません。
結局、山頂から2時間。
私たちはほとんど休まずにエスケープルートを
歩き続け、地蔵堂にたどり着きました。
この日、参加した子どもは7人。そのうち小2の子どもが
4人、3年生1人、4年生2人という編成でした。
一人も音を上げずに、ひるまずに歩きつづける
チカラがあったから、冷たいみぞれの山を
2時間も歩けたのです。
どういう山に登ったかではなく、どういう山登りを
したかが大切、と竹内洋岳さんはおっしゃっています。
この日のジュニアの子どもたちも、過去の山での
経験が反映されていたのだと思います。
毎回、晴れた日の山しか経験していなかったら、
とっくに悲鳴を上げて泣き出す子がいたでしょう。
今、どういう状況なのか。
なにをめざして行動しているのか。
仲間全員がすぐにそれを察知して、足並みを
そろえて行動するチカラの大切さを学ぶ機会に
なりました。
「悲観してる時間があったら、
1メートルでも下がる」
竹内洋岳さんも、本の中でこう語っています。