そのストックが邪魔です!
そのトレッキングポール(ストック)が邪魔なんです!
ジュニアクラスで登った甲斐駒ケ岳の、登山中に出会った光景について報告します。北沢峠から甲斐駒ケ岳(2967m)をめざす場合、まず前衛にある駒津峰(2752m)に登ります。駒津峰からは六方石のある鞍部まで岩稜の尾根を急降下して、そこから山頂に向かって登り返します。六方石から巻き道を使う場合、さらに下降して山腹をトラバース気味に巻き、花崗岩の森林限界に向かって登って行きます。この区間には高低差のある狭い岩場が三つほどあります。高いところでその高さは4、5メートルほどでしょうか。
ジュニアクラスの親子3組と登頂を果たして、同じルートで駒津峰に向かっていたとき、この落差のある岩場の一つで渋滞が起きていました。近づくと私たちの前にいた5、6人の年配者のパーティーが岩場の下におり、上から下りてくるパーティーの通過を待っていました。
岩場の傾斜は50度から60度くらいでしょうか。ちょっとした壁のように立ちふさがっています。けれども、一つ一つの岩には手がかりも足がかりもしっかりとあるので、決して難しい場所ではありませんし、恐怖感を覚えるような場所でもありません。現にジュニアクラスの小学生3人も、渋滞を起こすことなく自力で降りているのですから。ちなみに私の知る限り、北沢峠から甲斐駒までのルートには、鎖場や鉄梯子が一つもない稀有なルートです。山登りの基本が出来ていれば、通常の歩行と三点確保を使って容易にクリアできるのが、このルートの魅力とも言えます。
さて、くだんの岩場で渋滞を起こしていたのは二十代の4、5人の山ガールたちでした。その落差のある岩場を下りるのに、山ガールたちはかなり手こずっていました。こうした岩場の通過に慣れていないことは一目瞭然です。
下で待つ年配者のおじさんたちは「足が長いねえ」とか、「ゆっくりでいいよ」などと猫なで声でのんきな事を言ってましたが、そんなのんきな言葉を投げかける状況なのかという疑問を覚えました。
なぜならば、彼女たちがその岩場でもたついている原因が明白だったからです。彼女たちは両手にストックを持ったままで、この落差のある岩場を下りようとしていたのです。こんな急勾配の岩場でも、ストックを伸ばしたまま下ってくることに私は驚きました。
彼女たちは、ストックのストラップを手首に通したまま、その役立たずのストックの先端を真下に向けてブラブラさせながら、へっぴり腰で降りてきます。両手ともストックを持っているために、手でしっかりと岩をつかむことが出来ていません。足場の確保も適切ではありません。当然のことながら、その制御されていないストックの先端が、下りようとする先の岩に当たったりして、そのたびに彼女たちはストックに気をとられ、ますます逡巡し停滞しています。
彼女たちの技量もさることながら、なによりもそのストックの存在が、見ているだけで危なくて仕方がありません。手首にぶら下げたままのストックは本人にとっても危険な存在であり、真下にいる人間にとっても危ないツールと化しています。もう黙っていられなくて、私は言ってしまいました。
「こんな下りでストックなんか使うもんじゃないだろ!」
「ストックをしまって下りなさい!」
言われた女性は合点してくれたのか、「はい」と返事してくれたからよかったけれど、ストックを使うTPOはどこまで浸透しているのでしょうか。そうした危険な事態にも気づかずに、のんきな声をかけていた年配者たちの甘さにも腹が立ちました。この年配者のパーティには別な問題がありましたが、それはまた違う機会に取り上げたいと思います。
私は現在はトレッキングポールはまったく使っていませんし、親子山学校の子どもたちには「ストックは必要ない」と言っています。二本の足でバランスをとって歩くことが基本であり、足だけでは確保が難しい場合でも両手を駆使すればたいがいは解決できる山にしか連れていっていません。膝や腰に不安のある親の方にだけ、ストックの使用を認めています。
繰り返しますが、今回のジュニアクラスの子どもたち(小4と小5)は、ストックには一切頼らずに、この高低差のある岩場を自力で下り、登っています。私がいちいち手取り足取り指示することなどほとんどなく、彼らはそれまでの経験を糧にクリアしていきます。一人が通過したら、私はもうその後に続く子どもたちを見ることもなく前進します。一人目が手本となって、後続の子どもも同じように通過できると確信しているからです。言い方を変えれば、そうした阿吽の呼吸で状況判断ができない子どものうちは、甲斐駒には登らせません。
その岩場にいた女性たちは全員ストックを持っていました。全員が膝や腰が弱いメンバーだったのでしょうか。それが山道具として欠かせないアイテムだと思って購入し、当たり前のように使っているだけだと思います。10歳、11歳の子どもが素手で登れているのに、大人が過剰にストックに頼り、それによって余計な危険を増幅させ、こうした岩場で無駄な渋滞を引き起こしているのではないでしょうか。
ほかの同様の山やルートでも、起伏のある岩稜地帯でストックを使い続けている登山者をけっこう目にしますが、これって正しい姿なのでしょうか?正直言って私はトレッキングポールについては詳しくありません。ネットでも調べてみましたが、ストックの扱い方の注意事項を探しても、石突きにはキャップをということはよく載っていますし、下りではポールを長めになどと載っていますが、「使ってはいけない場面」についての情報が希薄でした。ストックが原因となって起きている小さなケガやトラブルは、意外に多いのではという気がしています。
親子山学校
関良一