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親子山学校からのお知らせ全般をお伝えします。

『4歳から登れる首都圏の親子山』巻頭の「はじめに」


発売中の親子登山のガイドブック『4歳から登れる首都圏の親子山』ですが、手にしていただいた方々から、巻頭に書いた「はじめに」のページに共感を寄せていただいています。

本の中身は、どこからどう見ても山のガイドブックなのですが、その根底には私が足かけ13年やってきた活動から、私が出会った多くの親と子の悲喜こもごもなドラマがあっての本なのです。

親子で登る山とは、「突き詰めればこういうことではないかしら?」という思いを、あえてガイドブックの巻頭に書いてみました。その「はじめに」の全文を掲載します。

共感いただけたなら、ポチっと本書をご購入くださいませ。

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『4歳から登れる首都圏の親子山』

はじめに

街の中なら車道と歩道は区分けされ、バリアフリーも進んでいます。子どもがダダをこねれば、階段を避けてエレベーターに乗ることもできます。食堂に入れば子ども向けのメニューもあって、味付けや量も大人とは違います。

ところが山には、子どものための区分けはなにもありません。

たしかに昔と比べて、山の情報はたくさんあります。登りたい山のことはネットで簡単に検索でき、山の本や地図も豊富です。子ども向けの登山用品も増えました。

しかし、実際の山は子どもだろうと登山家だろうと、一切おかまいなし。5キロの道のりは、誰が歩いてもきっかり5キロ。50センチの段差は、誰が通ろうと50センチ。びた一文負けてくれません。

さらに山登りは、歩いて移動するスポーツですから、道は刻々と変化します。つまり、問題の多い道を移動して行くのが登山です。

山は均一であることも、かたくなに拒否する場所です。言い方を変えれば、多様性があって、違ったものを受け入れてくれる場所です。

私が主宰する「親子山学校」には、毎年200名前後の親子が登録し、一年を通して親子トレッキングをやっています。参加する子どもは、4歳児から小学6年生まで。年齢も学年もさまざまです。

子どもの中には、跳び箱が苦手な子、鉄棒の逆上がりが出来ない子、自転車に乗れない子もいます。花粉症の子、食物アレルギーの子、アトピー性皮膚炎の子、発達障害を抱えている子もいます。子どものハンディキャップは一人ひとり違います。

親はどうでしょうか。シングルマザーもいれば、仕事や育児に疲れた共働きの親もいます。コミュニケーションがへたな親。何事にもルーズな親。山でもずっと子どもを叱ってばかりいる親。子ども以上に未熟な親の、なんと多いことか。

これは悪口ではありません。一人ひとり違った悩みや欠点を抱えながら、それでも生きていくのが世の中であり、それが人間です。そこへ持ってきて、問題だらけの山道を、親子で登ろうというのです。

だから悩み多き親子であっても、助け合い、我慢しなければなにも進まず、なにも終わらない場所だということにやがて気づくのです。つまり、親子登山は、「子育ての延長」だったのです。

長野県の入笠山にある「マナスル山荘本館」の山口信吉さんが、こんなことを話してくれました。山口さんは気象予報士の資格を持つ方です。

「雨上がりの虹を誰かと一緒に見上げても、虹は立っている場所や角度で一人ひとり、色も形も違って見えているんですよ。ですから私とあなたが見ている虹は、同じものではありません」。

山登りもまったく一緒です。同じ山でも、登る人それぞれで見えるものは違います。ですから、どこに登ったかではなく、あなたと子どもがどう歩き、どう登ったかが大事なのです。

本書では、山によっては二つか三つのコースを紹介しています。いろんな角度からその山を味わい、力量に応じて登って下さい。あれもこれもと欲張らずに、お気に入りの山に出会えたら、何度でも通ってみて下さい。

小さな子どもほど、繰り返し登る山に親しみを覚えます。この木橋の上で大きなカエルに出会った。この小道でドングリをたくさんひろった・・・。大人でも忘れていることを、子どもはよく覚えています。<知っている世界>に触れること、それが子どもの喜びです。

ひとつの山を親子でたっぷりと味わってから、ようやく次の新しい山に向かう。最初のうちは、それくらいゆっくりと始めてみてはいかがですか。登った山の数や高さを競うのではなく、子どもと一緒になにを共有し、どう過ごしたか。親子登山や子育ての醍醐味は、そこにあります。

関 良一
「親子山学校」主宰