雲取山の子どもたち・こども山岳塾報告
夏休み期間を利用した8月23日から24日の1泊2日で、親子山学校のジュニアクラスの子どもたちが参加する「こども山岳塾」の登山を行いました。登る山は東京都の最高峰・雲取山(2017m)です。初日はお祭バス停から後山林道で三条の湯(山小屋)までの10キロ。二日目は三条ダルミを経て雲取山頂、そしてブナ坂から鴨沢バス停まで。二日間で約25キロを歩きます。参加した子どもは10人。同行する大人は二名だけ。あくまでも子どもたちが主役なので、山行中のことは二人の6年生が中心となって取り仕切ります。よほどのことがない限りは、大人は一切口出ししません。
先頭を歩くK君は、小さい子でもしっかりとついて来られるよう、ゆったりとしたペースメイクに務めていました。K君のすばらしさは、そのペースが常に一定に保たれていることです。突然早くなったり遅くなったりはせず、どんな場面でも変わらないペース配分で歩ける。それだけでも立派なリーダーです。この雲取山の二日間、K君らが指示する休憩時間は、毎回5分ずつです。どんなに長い歩きや急登のあとでも「5分休憩」。下級生たちも文句ひとつ言わず、だまって従っていました。
最後尾につくことが多い、もう一人のリーダーT君は、常に前を歩く子どもたちの様子を見ていて、K君の真後ろにいる低学年の子たちの間隔が開くと「間隔詰めて!」と声をかけます。後ろでおしゃべりに夢中になる4、5年生がいると「おしゃべりやめて、集中して歩いて」と注意します。K君とT君の役割にも、大人は一切介入していません。彼らがその場で瞬時に決めたことです。
二人は、ふだんはまったく別々の町に暮らし、別々の学校に通っています。事前の打ち合わせもまったくしていません。それでも雲取山を仕切れるのは、それまでの経験が彼らの中にしっかりと根付いていた証です。登山ではなにが大事なのか、どんなことを注意し、どんな風に歩けばよいかを、彼らはしっかりと学んでいたのです。これには私もあらためて感心しました。
6年生と比較して、ほかの学年の子どもたちを見ていると、その違いは歴然としています。
2年生、3年生たちは終始他愛のないおしゃべりに夢中。4年生、5年生たちはちょっと余裕を見せながら、下級生をからかったり、6年生の言うことに逆らってみたり。みんな、それまでいろんな山で一緒に過ごしてきた仲間なので、相手の性格は百も承知。それでも二人の6年生だけは、決して同調することなく、自分たちの責任を果たすことにしっかりと専念できていた姿勢は見事です。
ほぼ想定通りの午後2時過ぎに、三条の湯に到着しました。初日の子どもたちの歩きは安定していましたし、二人のリーダーも落ち着いてそれぞれの役目を果たせていました。
三条の湯について一休みしてから、リーダーたちは翌日の早朝にあるく登山道の下見に出かけます。山小屋からの歩き出しすぐから、片側が谷に切れ落ちた細い道が続くので、念のため見ておく必要があります。その下見を終えてから山小屋に戻り、ようやくリーダーたちも小屋のお風呂につかります。
夜8時には布団に入った子どもたちですが、9時ころまでおしゃべりしている子もいました。きりがないので明かりを消して眠ってもらいました。
二日目は5時過ぎにはおき出して、5時半朝食。そして支度を整えて6時半出発です。二日目の最初の歩き出して、カメラのバッテリーをつなぐUSBコードが断線したため、以降の写真は撮れていません。後半は文章だけで、ざっくりとお伝えします。
二日目はK君と入れ替わってT君が先頭につく場面もありました。T君はK君にも増してゆったりしたペースで先導します。ハエが止まりそうなほどゆったり。平坦なところでも変えようとしないので、さすがに私も心配になって「T君、もう少しペース上げていいんじゃない?」と。いったんは早まるけれど、またもとのペースに。T君らしい慎重さだと思って口出しは控えました。
三条ダルミまでの道のりは、起伏もあり、片側が谷に切れ落ちている箇所もあります。ここを無事に通過することが二日目の最初の関門でしたが、K君、T君とも声がけもまめに行い、しっかりと下級生たちをリードしていました。
三条ダルミでやや長めの休憩をとり、そこから山頂までの急登は一度の休みも入れずに登りきりました。大人が混じったときは一度は小休止を入れますが、K君らは強気で休まず一気に登ります。同行していた大人のほうがぐったりでした。
無事に雲取山の山頂につき、そこで15分ほど休憩。
次に石尾根を下って奥多摩小屋をめざします。
奥多摩小屋への道は、最後に道標のない枝道に入ると、それが巻き道で近いのでK君にはそのことを伝えておきましたが、先頭のK君はその場に来ても迷わずに枝道に入っていったので、さすがだなあと感心。
奥多摩小屋の前で昼食になり、水場まで子どもたちも午後の水補給に下って行きました。お昼は時間を使ってしまったので、七ツ石山はさけて石尾根からブナ坂に入り、ずんずん下っていきます。
くだりでもリーダーたちの統率は乱れず、ほかの子どもたちもしっかり歩いていました。マムシ岩での休憩を終え、次の堂所での休憩をすませた後半から、しだいに低学年の子どもたちの歩みが遅くなってきます。T君が「がんばって歩いて!」「間隔つめて!」と声をかけます。
鴨沢からのバスは16時48分のバスが目標です。当初はK君も16時ころにはバス停に到着できる計算を持っていましたが、低学年たちの馬力がだんだん利かなくなりました。登山道脇の水場の手前でK君は休憩を入れました。そこでの休憩時に、兄弟で参加していた5年生のN君が弟のS君とちょっとしたことでケンカになり、弟を泣かせてしまう出来事が発生。
そのとき、真っ先に泣いているS君に寄り添って慰めてくれたのは6年生のK君でした。
「N、ケンカすんじゃねえよ」と6年生たちもN君にやんわりと苦言を呈していました。たとえ兄弟であっても、泣かされた弟も子どもたちの山の仲間です。仲間を傷つける行いを黙って放置せずにケアした6年生たちは立派でした。
やがて山道が終わり、林道に出て、さらに樹林帯の中を歩く段になって、2年生のR君の歩きがどんどん遅くなってきました。体力的に限界に近づいていたのでしょう。今日だけで15キロ近い山道を歩いています。
R君が先頭から離れてしまう様子を見ていたN君が、「ザック持ってやるよ」と言って、R君が背負っていたザックを受け取り、自分の胸の前で両方のショルダーベルトを通してN君は背中の自分のザックとあわせて二つのザックを抱えながら、R君の手をとって歩き出しました。N君、汚名挽回です。
16時はとっくに回って、16時20分過ぎ。集落にそった舗装路の坂道を急いで下っていくと、今度はやはり2年生のCちゃんがしくしくと泣き始めました。そばにいた私もびっくりして「どうした?もう少しでバス停だよ」。紅一点の参加で、ここまで男の子たちに混じっても健気に明るくがんばってきたCちゃんも、限界を迎えていたのでしょう。泣きながらもCちゃんは歩き続けました。
バス停にみんなが到着できたのは16時半をまわった頃でした。16時48分のバスに、なんとか間に合いました。下山の後半に乱れかけたチームも、K君、T君を中心に、みんなで励ましあいながら最後まであきらめずに歩きました。
バスが奥多摩駅に着くと、待機していた一部の母親たちの出迎えを受けました。電車に乗って、立川駅で電車を降りると、ほかの親も待っていました。子どもたちは二日間の山旅を終えて、それぞれの家へ戻って行きました。
山登りは経験しているけれど、子どもたちで1泊2日の山登りはみんなはじめての体験でした。
低学年の子どもたちにとっては、さらに貴重な体験になったと思います。最後まで上級生らしく、そして親子山で7年、8年と山登りをやってきた6年生のK君、T君のリーダーシップは見事でした。それにしっかりとついて行った子どもたちのファイトも立派でした。
こども山岳塾の山行は、あくまでもイレギュラーの不定期開催です。「子どもだけでどこまで山登りができるだろうか」「この子たちならきっとやってくれる」そういう期待にこたえられるメンバーがそろったときでなければできないことです。参加してくれた子どもたちと、その子たちを送り出してくれた親御さんたちに心から感謝します。
〔雲取山に挑んだ子どもたち〕
H・K君(6年)
T・T君(6年)
S・N君(5年)
K・R君(4年)
K・A君(4年)
S・I君(3年)
H・D君(2年)
S・S君(2年)
Y・R君(2年)
H・Cちゃん(2年)
同行:関良一・日高明宏
山行日:2014年8月23日ー24日
ルート:初日・お祭→後山林道で三条の湯(泊)
二日目・三条の湯→三条ダルミ→雲取山→奥多摩小屋→ブナ坂→マムシ岩→堂所→小袖乗越→鴨沢バス停