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『子どもと登るはじめての富士山』(旬報社)表紙


『子どもと登るはじめての富士山』は、『4歳からはじめる親子トレッキング』に次いで、私が親子向けに書いた二冊目の本です。富士山がユネスコの世界文化遺産に登録されたのは2013年6月22日です。私の小著はこれより前の6月1日の初版ですが、富士山が世界遺産に選ばれそうだから書いたのではありません。

出版社の担当編集者さんから「もう一冊、親子向けの登山本を作るとしたら、どんなテーマがいいですか?」と尋ねられて、「それなら富士登山の本を書きたいな。ちゃんとした親子向けの富士登山本ってまだないんですね。それにある程度、山登りに目覚めた子どもなら、一度は富士山に登ってみたいと思う子、けっこう多いと思うんです」そう答えて実現したのがこの『子どもと登るはじめての富士山』でした。

出版が近づくに連れて、もしかすると富士山が世界遺産になりそうだ・・という機運になり、いざ出版されるとすぐに舞い込んできたのが、静岡放送(SBS)の『愉快!痛快!阿藤快!』というラジオ番組の出演依頼でした。「富士山の世界遺産認定を前提に、番組で富士山特集をやりたいので、本の著者として生出演してもらえます?」との打診を受け、本の宣伝になるのならと二つ返事で出演を承諾、放送当日の朝に新幹線に乗って静岡に向かいました。

番組のMCは俳優の阿藤快さん、アシスタントは原田亜弥子アナです。阿藤さんも原田アナも気さくな方々で、私は過度に緊張することもなく、30分も自由にお話させていただけました。リンクしたものはこの時の番組の模様で、現在youtubeにアップされています。ラジオ番組でしたが、同時にネットで動画配信も行われていたため、こうして阿藤さんや原田アナとの掛け合いが記録されました。(阿藤快さんはこの2年後に急死され、今となっては私の大切な思い出の映像です)

改めて内容を聴くと、富士登山を成功させるコツばかりじゃなく、私が親子登山に目覚めた理由や子どもと登る山の良さなど、けっこう幅広く語っています。番組から数年経った今も、私が普段言ってることと中身はほとんど変わらないので、ご覧になっても差し支えないと思います。

富士山が世界遺産に登録された時点で、親子向けに特化した富士登山の攻略本は『子どもと登るはじめての富士山』しかなかったので、初版は瞬く間に部数わずかとなり、ひと月後には重版出来(じゅうはんしゅったい)となって編集者さんも喜ばれていました。この時の二刷目は1000部だったでしょうか。

山の本はもともと発行部数が少ないのですけど、重版出来は著者にとっても名誉なことです。ちなみに私の最初の本『4歳からはじめる親子トレッキング』の初版は2012年で、5年後の2017年に重版出来。この時は、中身の一部も加筆・訂正しました。こちらは親子登山を始める初心者にとっての指南書となるようにと思いを込めて書いたもので、長い年月をかけてコツコツと読まれるタイプの本になっています。

『愉快!痛快!阿藤快!』(静岡放送SBSのラジオ番組:出演約30分)
https://www.youtube.com/watch?v=E8BWibC6V8s



「山小屋とのつきあい」

山小屋に予約の電話を入れる時、私は主宰する団体名を名乗らないことがあります。初めて泊まる山小屋も、何回か泊まったことがある山小屋でも、私はあえて団体名を名乗りません。たいていの場合、個人名で申し込みます。その方が多いでしょう。別に遠慮しているわけではありません。

そうして山小屋に行き、何年も通って、ある日ようやく山小屋の方から私たちの存在を尋ねられることがあります。山小屋の主人やそこで働くスタッフたちが、この人たちはいったい何者なんだろう?と興味を示して声をかけてくれれば、素直にかっかくしかじかと説明します。そこで私たちは初めて山小屋の方々に認識され、次からは団体名を名乗って予約することができます。


「親子登山 二つの鉄則」(しんぶん赤旗「知る聞くRoom」より)


登山シーズンを迎えた5月4日の「しんぶん赤旗」(土曜日・くらし家庭面)に、親子登山をはじめる際に気をつけたいことを二点に絞って書いた原稿が掲載されました。これは親子山学校でもすべての親子メンバーが共有して、毎回の山行で実践している鉄則です。こうした認識と実践は反復しなければ身につきません。子どもが悲しい山岳事故に遭わないよう、親子でこの鉄則を共有してほしいと思います。


編笠山(八ヶ岳)に登る子どもたち


漢字の母国である中国の何百年、何千年も前に書かれた書などを手本にして、同じようにに書くことを「臨書(りんしょ)」と言います。臨書は、書の古典や技術を学ぶ者にとって大切なものです。書家の石川九楊さん(1945年生まれ、福井県出身・京大法学部卒)が、臨書についてこう話しています。

「臨書をすれば筆がどういう角度で入って、どういう速度でどのくらいの力で、どう回っていったかまでわかる」

小学校に上がったばかりの子どもでも、漢字を最初に習う時は必ず正しい書き順を教わります。石川さんは、漢字の書き順さえわかっていれば、「空海が何を考えていたか」さえ想像できると言います。書道の奥深さと真髄にも通じる、とても興味深い話です。

石川九楊さんのお話で、私にもピンと来ることがあります。それは、登山にも「書き順」に当たるものがあるということです。それが、歩き方です。歩き方を見れば、その人の心持ちや力量が分かるのです。


『4歳から登れる首都圏の親子山』(関良一・旬報社)




『4歳から登れる首都圏の親子山』(関良一・旬報社/2015年)は、親子山学校でも繰り返し登り続けている山とコースを取り上げたガイドブックです。

本の巻頭にある「はじめに」には、どんな思いでこの本を作ろうとしたのかを綴っています。その全文を掲載します。

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はじめに

街の中なら車道と歩道は区分けされ、バリアフリーも進んでいます。子どもがダダをこねれば、階段を避けてエレベーターに乗ることもできます。食堂に入れば子ども向けのメニューもあって、味付けや量も大人とは違います。

ところが山には、子どものための区分けはなにもありません。
たしかに昔と比べて、山の情報はたくさんあります。登りたい山のことはネットで簡単に検索でき、山の本や地図も豊富です。子ども向けの登山用品も増えました。

しかし、実際の山は子どもだろうと登山家だろうと、一切お構いなし。5キロの道のりは、誰が歩いてもきっかり5キロ。50センチの段差は、誰が通ろうと50センチ。びた一文負けてくれません。

さらに山登りは、歩いて移動するスポーツですから、道は刻々と変化します。つまり、問題の多い道を移動して行くのが登山です。

山は均一であることも、かたくなに拒否する場所です。言い方を変えれば、多様性があって、違ったものを受け入れてくれる場所です。

私が主宰する「親子山学校」には、毎年二百名前後の親子が登録し、一年を通して親子トレッキングをやっています。参加する子どもは、4歳児から小学6年生まで。年齢も学年もさまざまです。

子どもの中には、跳び箱が苦手な子、鉄棒の逆上がりが出来ない子、自転車に乗れない子もいます。花粉症の子、食物アレルギーの子、アトピー性皮膚炎の子、発達障害を抱えている子もいます。子どものハンディキャップは一人一人違います。

親はどうでしょうか。シングルマザーはいて当たり前です。仕事や育児に疲れた共働きの親もいます。コミュニケーションがへたな親。何事にもルーズな親。山でもずっと子どもを叱ってばかりいる親。子ども以上に未熟な親の、なんと多いことか。

これは悪口ではありません。一人一人違った悩みや欠点を抱えながら、それでも生きていくのが世の中であり、それが人間です。そこへ持ってきて、問題だらけの山道を、親子で登ろうというのです。

だから悩み多き親子であっても、助け合い、我慢しなければなにも進まず、なにも終わらない場所だということにやがて気づくのです。つまり、親子登山は、「子育ての延長」だったのです。

長野県の入笠山にある「マナスル山荘本館」の山口信吉さんが、こんなことを話してくれました。山口さんは気象予報士の資格を持つ方です。

「雨上がりの虹を誰かと一緒に見上げても、虹は立っている場所や角度で一人一人、色も形も違って見えているんですよ。ですから私とあなたが見ている虹は、同じものではありません」。

山登りもまったく一緒です。同じ山でも、登る人それぞれで見えるものは違います。ですから、どこに登ったかではなく、あなたと子どもがどう歩き、どう登ったかが大事なのです。

本書では、山によっては二つか三つのコースを紹介しています。いろんな角度からその山を味わい、力量に応じて登って下さい。あれもこれもと欲張らずに、お気に入りの山に出会えたら、何度でも通ってみて下さい。

小さな子どもほど、繰り返し登る山に親しみを覚えます。この木橋の上で大きなカエルに出会った。この小道でドングリをたくさんひろった・・・。

大人でも忘れていることを、子どもはよく覚えています。<知っている世界>に触れること、それが子どもの喜びです。

一つの山を親子でたっぷりと味わってから、ようやく次の新しい山に向かう。最初のうちは、それくらいゆっくりと始めてみてはいかがですか。登った山の数や高さを競うのではなく、子どもと一緒になにを共有し、どう過ごしたか。親子登山や子育ての醍醐味は、そこにあります。

関 良一
 親子山学校 主宰